オーストラリアとタイの日本語教育
~特徴的な教育のかたち~

経営学部1年生  山岸ちひろ

 

●調べた経緯
 テーマ決めのときに見た調査結果の中で、オーストラリア・タイともに、日本語を学ぶ人が大きく増加していたことが印象的だった。世界で話せる人がそれほど多くない日本語を学校教育の中に積極的に取り入れるのにはどういった意図や目的があるのか、気になったため、調べてみた。

<1.オーストラリアの日本語教育>
○オーストラリアの日本語教育の背景
オーストラリアは、1901年にイギリスから独立してから、1966年の移民法改正まで、白豪主義のもと、アジアからの移民を受け入れてこなかった。言語も英語を話し、同化するよう求めていた。しかし、1970年代、アジアの国々の経済成長が進んだこと、世界中から白豪主義が批判されたことなどを受けて、アジア中心外交・多文化主義に国の方針を大きく転換した。1987年には英語と英語以外の言語教育(LOTE)に関する報告書「言語に関する国家政策」が承認され、外交上あるいは経済上の実利の追及を目的の一つとしてLOTE教育を推進することの必要性が打ち出された。その後の「学校教育におけるホバート宣言」によって、LOTEを学校教育の重点的学習領域に含めることがすべての州・準州によって承認された。これらの決定により、これまで一部の大学などを除いて行われてこなかった日本語教育が、学校教育の中に取り入れられることになった。
その後も外国語学習を奨励する動きは続いた。1994年には、労働党政権によって「オーストラリアの学校におけるアジア語・アジア学習推進計画」が導入され、特に優先度の高いアジア言語(日本語・韓国語・中国語・インドネシア語)の教育を1996年から全国の初等教育に導入するとともに、2006年までに3年生から10年生(日本の高校1年生に相当)までの全ての生徒の60%と12年生(日本の高校3年生に相当)の15%が当該言語の一つを学習していることを目標とした。この計画は政権交代によって2002年に終了したが、2007年には再び労働党が政権を奪還し、2008年5月に公表した「教育革命予算」の中では、2009年から4年間に、6,240万豪ドル(日本円で~)がアジア言語・文化教育振興支援のために配賦されることが発表された。また、2008年12月にメルボルン宣言が発表された。この宣言は、「全てのオーストラリア人年少者が成功した学習者かつ自信を持った創造的な個人となり、また活動的で広い見識を持った市民となることを支援し」、教育における平等及び優れた成果を促進するために制定された。これらの動きの中で、日本語教育の目的は、経済的・対外的なものから、個人の能力や見識を高めることへと変遷していったといえる。

○オーストラリアのカリキュラム
オーストラリアでは6-6または7-5制がとられている。そのなかでも義務教育はFoundation(1年生に先行する準備期間)-10年生で、その後11、12年生を経て、大学や高等実業専門学校へ進学することもある。国としては、全国統一カリキュラムが作成されており、その中では、低学年から順に数や体の部位などの名前、文化学習などを始め、徐々にひらがなの読み書き、自己紹介、日記を書くというようにレベルアップしていく例が示されている。
しかし、日本語教育は、州によりまちまちで、Foundationから8年生まで必修としている州もあれば、外国語教育を強く推奨しているだけの州もある。また、「個人の人間性を高める外国語教育」という目的が達成できているのかはあいまいである。

○新たな取り組み ~Intercultural languages teaching and learning~
これは、オーストラリア連邦政府を中心に調査が進められている、外国語学習におけるスタンスのようなものだ。能動性の構築、関連付け、社会的なやりとり、内省/熟考、責任という5つの原則が設定され、それらを盛り込んだ授業や教材を考案、開発している。例えば、授業の例としては、図のようなものがある。カタカナと、オーストラリア料理のカタカナ名と発音を学ぶことで、英語とカタカナの発音を比べ、熟考/内省や関連付けができ、オーストラリア料理が日本ではどう捉えられるか考えることで、社会的なやりとり、関連付けといった能力につながる。つまり、日本語学習と人間性が同時に培える授業になるということだ。この授業や教材はまだ開発段階で、これから広めていくには、具体的な教材の開発や、教師への紹介など、課題がまだ多いが、期待されている取り組みである。

 

<2.タイの日本語教育>
○タイの日本語教育の背景
1960年代以降、大学を中心に日本語教育が行われていた。それに親日的感情、日本とタイの経済関係の強さ、アニメ・歌・コンピューターゲームなど日本のポップカルチャーの人気が加わり、日本語学習が広がりを見せている。近年の中等教育の学習者の伸びは、2010年のWCSS導入が要因である。WCSSとは、中等教育レベルを国際化に対応できる水準にすることを目指したもので、教科横断的な科目設置が行われた。日本語教育においては、文科系の生徒に限られていた英語以外の第二外国語の履修が、理数系も含めたすべてのクラスで可能になり、中高における日本語教育が大幅に拡大した

○タイの教育カリキュラム
6-3-3制。初等学校(6年間)、前期中等教育機関(3年間)、後期中等教育機関(3年間)。なお、前期普通中学校3年生修了後、職業専門学校(3年間)に進学することもできる。高等教育は、総合大学(4年間)、ラチャパット大学(4年間)、職業高等専門学校(2~3年、4年)などがある。ラチャパット大学とは、師範学校を前身とする地域密着型の大学である。英語は初等学校1年生から授業があるが、日本語などの第二外国語は初等学校ではほとんど教えられておらず、前期または後期中等教育学校から授業が始まることが多い。前期中等教育学校での授業は多くの場合、選択科目(週1~2コマ)か、テストは行わないものの単位として認められる日本語クラブの形態がとられている。後期中等教育学校では、これら2つの形態に加えて、週5~7コマ学ぶ専攻クラスが設置されることがある。2010年に、中等教育レベルを国際化に対応できる水準にすることを目指したWCSSが導入され、教科横断的な科目設置がなされたのだが、日本語教育においては、文科系の生徒に限られていた英語以外の第二外国語の履修が、理数系も含めたすべてのクラスで可能になり、中高における日本語教育が大幅に拡大した。教育省によると当初45校だったが、2017年現在607校となった。高等教育では、国立私立合わせて90以上の大学で日本語教育が行われており、文学部や人文学部などに主専攻学科を持つ大学も38校ある。

○新しい取り組み
もともと日本語学習の教材には、週5~7回授業を行う専攻クラス向けの「あきこと友達」シリーズしかなかった。しかし、週1~2コマしかない選択科目や、日本語クラブでの日本語学習では、このシリーズを完全に修了することができない。そのために開発されたのが、「こはるといっしょに」シリーズだ。これは、時間数の少ない選択科目での学習でも、コミュニケーションを目標にする人が多いことから、文字の定着を重視した。アソシエーション方(下図)を用いて、絵とストーリーと一緒に文字を覚えていくようになっている。また、復習ページにゲームを盛り込むことで、飽きない工夫がなされている。

 


●考察
今回調べてみて、学校での外国語教育と一言で言っても、かなりいろいろな形態があるのだなと感じた。また、それぞれ目的に基づいて変わったかたちをとっていることも分かった。オーストラリアでは、ただ外国語の知識だけではなく、個人の人間性を高めるための教育方法を工夫していること、タイでは、同じ中等教育でも、様々な形態を用意して、ニーズに応えていることが、とても印象に残った。日本での外国語学習というと、初中等教育での英語学習と、大学での第二外国語が大部分を占めているが、時間と目的はその中にとらわれないものなのだなと感じた。現状、日本で外国語学習というと、学校では英語ばかりが着目されてしまい、テストや入試に向けて勉強するイメージがある。また第二外国語も、大学での単位を取るために勉強するイメージがどうしてもある。しかし、初中高等教育で広く、外国語学習を他の目的でも取り入れていくことで、より豊かな人間性が培えるのではないかと思った。再来年の入試からはセンター試験に記述問題が出題されるなど、論理的思考力が問われる世の中になっている中で、外国語学習が重要な役割を担っていくことのではないかと思った。

 

●質問に対する答え
・オーストラリア・タイはどちらも学校教育での日本語教育が中心だが、日本に留学、または日本企業に就職する人も、学校教育のみで日本語学習しているのか?
➡オーストラリアからの留学生数は約8,000人いる。特にデータが見つからなかったので、オーストラリア人の友達に尋ねた。彼は1年間日本に交換留学に来ている。日本語学習は中等教育(中学校)から学校教育のみで行ったと言っていた。
タイからの留学生は約2,500人いる。国際交流基金によると、教育上の問題点についてのアンケートで、教材の不足・学習者不熱心・教師の教授方法不十分などが上位だ。また、日本語学校など、その他の教育機関で学ぶ人が30,000人以上おり、学校教育だけではまだ不十分な部分があるようだ。

 

※参考文献
・「オーストラリアンカリキュラム」https://www.australiancurriculum.edu.au/ (2018年1月17日閲覧)
・キャシー ジョナック・根岸ウッド日実子・松本剛次(2008)「国際交流基金 日本語教育紀要 第4号」https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/teach/research/report/04/pdf/09.pdf (2018年1月18日閲覧)
・プラパーセーントーンスック・三浦・渋谷(2012)「国際交流基金 日本語教育紀要 第8号」https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/teach/research/report/08/pdf/121206_08.pdf (2018年1月18日閲覧)
・産経ニュース 「日本語も日本文化教育にも重点を」https://www.sankei.com/region/news/140411/rgn1404110001-n1.html (2018年1月19日閲覧)
・俵幸嗣ウェブマガジン「留学交流」2013年10月号vol31 https://www.th.emb-japan.go.jp/jp/jis/ryugaku_kyoiku2013.pdf (2018年1月21日閲覧)
・オーストラリア大学.com ホームページ https://daigaku.com.au/learn-the-world-in-aus-and-work-in-the-world/%e3%82%aa%e3%83%bc%e3%82%b9%e3%83%88%e3%83%a9%e3%83%aa%e3%82%a2%e3%81%ae%e5%9b%bd%e5%88%a5%e7%95%99%e5%ad%a6%e7%94%9f%e6%95%b0/ (2018年1月21日閲覧)

©2014 Yoshimi OGAWA