中国の内モンゴルにおける日本語教育


                               代弟・宮倩

 
1はじめに
 中国の北にある内モンゴル自治区は1947年5月1日に成立し、中華人民共和国の少数民族自治区としては最も早い時期に成立した自治区で、漢族が人口の多数を占めてはいるが、モンゴル族が主体になっている自治区である。自治区内で通用している言語は中国語とモンゴル語である。モンゴル族の多数はモンゴル語を母語として使用しているが、小学校から漢語(中国語)を学ぶため、漢語の知識も持っている。
歴史などの原因で、中国内モンゴル自治区は日本語教育が盛んな地域である。それに、モンゴル語と日本語の共通点が多い。例えば、二つの言語の発音は近くて、文字の表記も同じ表音文字である。また、モンゴル語も日本語も同じくSOVの語順で、助詞の使い方も似ているので、モンゴル族に対して、日本語は勉強しやすい言語だといえる。本稿で、そうした特徴を持つモンゴル語・中国語バイリンガルの学習者に対する日本語教育はどのように行われてきたのか、その特徴と、現在に至る変遷についてまとめて行く。

 

2内モンゴルの言語政策
 内モンゴルではモンゴル語と漢語が話せるバイリンガルの人が多いので、ほかの少数民族と同じ「二言語教育」が行われてきた。少数民族の言語政策では、民族言語に対する尊重と漢語の普及がともに重視されている。例えば、中国の憲法に「各民族はすべて自己の言語文字を使用及び発展させる自由を有する」、「国家は、全国に通用する標準語を普及する」という政策がある。一方、民族区域自治法では「民族自治地方の自治条例の規定により、当該地域に通用するひとつまたは複数の言語文字を使用するものとする。同時に複数の通用言語文字をもって職務を遂行するときは、区域自治をおこなう民族の言語文字を主たるものとすることができる」(第21条)として共通語の漢語のみならず民族言語の使用を保障している(アナトラ,2009)。
ボルジギン(2012)の例によると、内モンゴルの民族小学校における2種類の言語教育がある。一つは「モンゴル語」を教育言語として「漢語」を加えて学習し、小学校低学年から全科目をモンゴル語で教えられ、小学校 2 年次からは「漢語」の科目において徐々に漢語で教えるようにしている。もう一つは「漢語」を教育言語にして「モンゴル語」を加えて習い、「モンゴル語」の科目だけがモンゴル語で行われ、その他の科目は漢語で行われている。このような状況が内モンゴルでの「二言語教育」の実態である。

 

3変遷
 最初、内モンゴルの東部は満州国の一部として、日本語教育を受けていた。日本は「国民教育」の目的を達成するため、日本語教育を行われた。中国建国後の長い時間では一度中断し、日本語教育はあまり進んでいないが、1972年日中国交正常化の後、内モンゴルの大学では日本語科目が設置し始めて、1990年代から普及になった。具体的な状況は以下の表の通りである。

 

 

4内モンゴル自治区の日本語教育の特徴
 内モンゴル自治区に多くの機関に日本語教育が盛んになっている。
(1)高校での日本語教育(民族高校の場合)
 内モンゴルで民族教育制度があり、「少数民族は民族学校に入って、民族語や民族文化を学び権利がある」と言われている。幼稚園から高校までは民族語で授業を行う民族学校がある。内モンゴル自治区では小・中では日本語教育がほとんど行っていないけど、少数の高校は日本語教育を行っている。ある民族高校を例にして考察する。

しかし、今、内モンゴルのモンゴル民族の語学教育はバイリンガル教育から3言語の教育へ進んでいる途上である。民族高校では「3語クラス」というクラスを設定してモンゴル語・中国語・英語を中心に行わっている。

(2)大学の日本語教育
自治区内の大学では、総合的な大学は日本語の専攻を設置している。例えば、内モンゴル大学、内モンゴル師範大学、内モンゴル民族大学等。他には経済、医科、工業などの大学は第二外国語として日本語の授業を設置している(選択の形)。本稿でその中の一つ内モンゴル師範大学を例にして見ていく。
・大学の専攻としての日本語教育

比べて、日本語の授業の種類が少ない、文学、歴史、地理などの授業が取り入れていない、日本人の先生がいない、教師数もちょっと少ない」と言っていた。

・第二外国語としての日本語教育
モンゴル族は日本語の専攻としての日本語教育以外に第二外国語として日本語を学ぶ人が多い。それの理由は二つ考えられる。一つ、日本語はモンゴル語と文法的似ているのでモンゴル族学習者に対して英語より学びやすいと言われる。だから、高校で英語を勉強したけれども大学に入ってから、日本語を選択して勉強する人が多いである。二つ、大学院に進学する時有利である。英語で受験するより高い点数取れる。

(3)その他の日本語教育機関
近年、日本語学校、塾などの日本語教育機関が増えてきた。それらが中国語あるいはモンゴル語で教える教育形式である。そのような機関に通う人たちは多く三つに分けられる。一つは留学する目的である。次は、大学院の受験のためである。最後に、少数の興味を持って学んでいる人である。
日本語の塾に通っていたBさんのインタビューによると、このような塾は留学、また受験向けであるため、日本語に興味を持って勉強に行った彼女には授業スタイルとかは魅力的じゃなかった。教科書は『標準日本語』で、受験向けのクラスしかなかったため、「授業進行が早い、文法を中心、クラス人数が多い」と言っている。

 

5終わりに
 中国の内モンゴルにおける日本語教育は長い歴史があるが、たくさんのところはまだ不十分である。例えば、日本語教師の数は足りなくて、レベル差も大きい。また、モンゴル族が使用する日本語教科書が中国語版であり、モンゴル語版ではなく、適当な日蒙辞書もない。モンゴル族に対して、バイリンガルとしてのメリットは生かせないと考えられる。フフホトの大学教員を中心にモンゴル語で日本語教科書を作るプロジェクトが進められているそうだが、期待している。

 

参考文献
1. 泉文明・山口敏幸・岩田一成・長江春子・本田弘之(2001)「中国内蒙古における日本語教育の展望 : 日本語教師研修会の現場から」『国際文化研究』5 ,龍谷大学
2. 于衛紅・高春元・沙秀程(2014)「中国における大学日本語教育の問題点について : 内蒙古大学の日本語専攻を例とする」『九州共立大学研究紀要』5-1
3. 青格楽図・烏蘭「内モンゴルのモンゴル民族の語学教育事情」『北海道言語文化研究6号』
4. アナトラ グリジャナティ「中国における少数民族双語教育に関する研究:多言語共生の視点から」,『飛梅論集』9, pp.17-32, 2009-03-31
5. 于逢春「『満州国』のモンゴル族に対する日本語教育に関する考察」,『広島大学大学院教育学研究科紀要』第三部,第50号,p197-204,2001年
6. 哈斯額尓敦「中国少数民族地域の民族教育政策と民族教育の問題-内モンゴル自治区の民族教育を中心に-」,『多元文化/名古屋大学国際言語文化研究科国際多元文化専攻』5,p265-280,2005-3
7. ボルジギン・N・ムンクバト「内モンゴル自治区における民族学校の言語教育について-モンゴル族学校、漢族学校、日本の小学校と在日朝鮮人学校のカリキュラム比較からの一考察-」,『千葉大学人文社会科学研究科研究プロジェクト報告書』239,p5-20, 2012-02-28

©2014 Yoshimi OGAWA