イギリス・ブラジルの日本語教育 ~教育段階別~

教育学部1年 稲垣公太

 

 イギリス・ブラジルというヨーロッパ・南米それぞれの主要な国の日本語教育がどのような環境で行われているのかについて考えていこうと思う。日本語教育の始まった経緯などは授業でも学んだので、今回は主に学校現場でどのような環境で、どのような教育がなされているのかに注目したい。初等教育、中等教育、高等教育、その他の教育機関にわけて考えていきたい。

 

ブラジル

 ブラジルの教育段階は「基礎課程(1、2)」と「中等課程」の9-3制となっている。基礎課程1(日本の小学校に相当するもの)は1-5年生の5年間、基礎課程2(中学校に相当するもの)は6-9年生の4年間、中等教育(高校に相当するもの)は1-3年生の3年間である。
初等教育
 公立校では、日本語教育は、パラナ州クリチバ市の2校の市立学校でパラナ州連邦大学日本語コースの教育実習の一環として提供されているコース以外、日本語コースは実施されていない。(2016年現在)私立校は就学前から「基礎課程1、2」までの10年近く日本語教育を行う学校が、全国に10数校存在する。もとは日系移民のための学校がバイリンガル校として再スタートしたケースが多い。ブラジル国籍を有し、原則としてブラジルの大学で外国語を専攻し、教員資格を有している者が教員として指導している。教育の内容としては絵カードや文字カードやぬりえ、歌、踊りを中心に遊びながら日本語に慣れる指導が行われている。ブラジルで開発された教材のほか、日本で開発された教材も使われている。これらをもとにした自作プリントも使われている。
中等教育
 公立の学校では、「基礎課程2」の6年生から第1外国語として英語、スペイン語が導入されている。日本語教育は、サンパウロ州、パラナ州、ブラジリア連邦区の教育局が運営する言語センターで課外活動(ブラジル全体で30数校・2016年現在)として行われている。第2外国語は、公立の学校では、「中等課程」の1年生から導入される。スペイン語が大半であるが、フランス語を選択できるところもある。私立の学校では「基礎課程2」の9年生まで日本語を継続して学習できるが、「中等課程」まで続ける学校はほとんどない。初等教育と同じくブラジル国籍を有し、原則としてブラジルの大学で外国語を専攻し、教員資格を有している者が教員として指導している。学校により様々な教材が使われており、サンパウロ州教育局の言語センター(CEL)では、教育局の要請により国際交流基金サンパウロ日本文化センターが協力して制作した教科書『ことばな』が使われている。日系人を中心とする学校では、『新しい国語』(東京書籍)も使用されている。
高等教育
 日本語教育は、専攻課程、卒業単位として認定される正規の選択科目、公開講座など様々な位置づけで行われている。専攻課程は8校あり、サンパウロ大学は日本語・日本文学、特に古典文学を中心とした研究者養成、リオグランデドスル連邦大学は近現代日本文学を中心に翻訳者養成、そのほかの6校は教員養成に重点を置いている。大学院ではサンパウロ大学に修士課程があるのみで博士課程はどの大学にもない。正規の選択科目があるのはブラジリア連邦大学、カンピーナス大学(州立)、リオグランデドスル・カトリック大学(私立)の3校のみである。その他教育機関に区分される、公開講座を行っている大学は15校ほどである。2016年10月より、五つの連邦大学(リオデジャネイロ連邦大学、ブラジリア連邦大学、リオグランデドスル連邦大学、パラナ州連邦大学、アマゾナス連邦大学)にて「国境なき言語」プログラムが開始され、主に日本留学希望の理系学生を対象に日本語教育が行われている。教員をするための条件はブラジル国籍が必要でないこと以外は小・中等教育と同じ。半数以上の学校で「みんなの日本語」(スリーエーネットワーク)が使われている。また、日本で開発された様々な教材も併せて使用されている。
その他教育機関
 日経団体が経営する日本語学校や、民間の外国語学校などがある。20~30代の学生や社会人が多いが、児童や学生も少なくない。地方都市では4~5人、20~30人ほどの規模で、大きな都市になると100人程度の規模で行われている。単に規模の違いというだけでなく、経済的余裕などの貧富の差による影響もあると考えられる。公文式日本語教室はブラジル全土に展開されており1000~2000人ほどの規模である。ブラジル日本語センターではスピーチコンテスト、弁論大会を通して日本語教育の普及活動を行っている。指導者は特に資格は必要なく日本語が話せれば教師になれる。長年日系人の職業と考えられていたが、1990年代後半から非日系人の教師も増えてきている。使用されている教材は様々で、国内外の様々な機関で作られた教材を使用している。また、2011年にWEB版「エリンが挑戦!にほんごできます。」のポルトガル語版が作られ、ポルトガル語でインターネットを通じた学習ができるようになった。

 

イギリス

  公立学校の場合では、Primary School Educationと呼ばれる初等教育の期間が6年間(5~11歳)、Secondary School Educationと呼ばれる中等教育の期間が5年間(11~16歳)である。その後、Further Education Collegeと呼ばれる継続教育に進む者、Sixth Form Collegeと呼ばれる大学進学準備課程に進む者に分けられる。中等教育まではKey Stageと呼ばれる4つの期間に分けられており、それぞれの期間で履修内容が決められている。(Key Stage 1:5~7歳、Key Stage 2:7~11歳、Key Stage 3:11~14歳、Key Stage 4:14~16歳)
初等教育
 いくつかの機関が正規授業または課外授業の一環として、日本語の授業を取り入れている。2002年12月18日、教育技能省(現教育省)が、「Languages for All:Languages for Life」という言語政策文書をイングランド向けに発表した。この文書は、国際化が進む21世紀に取り残されぬよう、外国語教育に力を入れ、外国語能力、異文化理解能力を向上させていくことを宣言したものであり、特に初等教育での外国語教育を最重視している。この文書の中では「2010年までにKey Stage 2(第3~6学年)のすべての小学生(7~11歳)に外国語を学ぶ機会を与える」と提言されている。この政策は、2010年の政権交代、連立政権の誕生のため再検討され、中断になったが2014年9月から外国語教育が必修化されることに決まった。この決定により日本語教育を導入する学校が増えているが、特定の教科書といったものはなく、教員が独自に作ったテキストを使用している場合が多い。
中等教育
 2014年の初等教育での外国語教育の必修化決定までは中等教育から外国語教育が必修となっていた。(2002年にKey Stage 4(14~16歳)での外国語学習が必修ではなくなった。)日本語教育では、教員数の不足、イギリス人教員の日本語運用能力の未習熟、語学教育に関する専門知識がない日本人教員による指導など課題が多くある。日本語のみを専攻して公的教員資格を取得できる課程がノッティンガム大学に唯一あったが2007年に閉鎖となった。フランス語、スペイン語、ドイツ語などの欧州言語と日本語を組み合わせて公的教員資格を取得できる大学は数校しかない。授業は特定の試験を目指して組まれることが多い。そのため、教科書もそれに合わせたものが選ばれている。コース設定は特定の試験を目指して行われることが多く、教科書の選定もそれに合わせられる。オーストラリアで発行された『Obento』シリーズや『JAPANESEFORYOUNGPEOPLE』国際日本語普及協会(講談社USA)、『初級日本語げんき』坂野永理(ジャパンタイムズ)、『絵とタスクで学ぶ日本語』村野良子ほか(凡人社)、『BASIC KANJI BOOK』加納千恵子ほか(凡人社)など様々な教材が使われている。 
高等教育
 日本研究を専攻する学生が必修科目として、他分野を専攻している学生が外国語科目として学習している。教材は初級レベルの授業では、『みんなの日本語』スリーエーネットワーク(スリーエーネットワーク)、『初級日本語げんき』坂野永理(ジャパンタイムズ)が主に使われている。2000年代前半には教育機関の評価方法に競争原理の導入、財政難、成果が出にくく、財源をもたらさない分野というイメージなどの影響を受け東アジア、日本に関する学部が閉鎖されていった。また日本語教育に関する教員の雇用が不安定、研究環境の整備がされていないという現状がある。そのような環境を改善するために1998年9月に英国日本語教育学会が設立され、研究大会や学会誌、研修会など改善していくための活動を行っている。
その他教育機関
 イギリスでは生涯教育の考えから成人教育機関によって豊富な選択肢が用意されている。外国語講座のひとつとして日本語講座を開講している機関もある。国際交流基金ロンドン日本文化センターでは、初級から上級までの短期日本語講座を実施、2013年1月から、ロンドン大学SOASと共催で「入門日本語講座」を開設している。言語だけでなく文化についても学べるような内容になっている。
感想
 今回のレポート作成を通じて、さまざまな日本語学習教材が作られていることを知った。教材の内容は、初めは挨拶や数など簡単なものから始まり、現在形、過去形などの文法に発展していくという内容で、私たちの英語の教材に近いようなものだった。また無料のインターネット教材「エリンが挑戦にほんごできます」などもあり、日本語学習がしやすくなるように教材の工夫がなされているということも分かった。また、各地に日本語・日本文化に関するセンターや組織があり、日本文化の普及、日本語学習講座、学会を通して日本に関心を持ってもらい、日本語学習者の拡大、日本研究の環境を改善に向けて活動していること知ることができた。海外での活動は必要であり継続していかなければならないと思うが、自然と現地の人々が日本について知りたい学びたい、日本語が必要であると思えるよう日本の製品、技術をこれまで以上にアピールしていくことも必要なのだと感じた。また新聞記事で、ブラジル国内で全く日本語を学習しなかった日系人が来日してから日本語を学び始めたという日系の人の話や、外国出身の子どもに日本で日本語教育を行っていることを知った。様々な母語の人々がおり多くの人々がボランティアで協力していることも分かった。国内での負担を減らすためにも海外での日本語教育が必要だと感じた。そのためにも日本の文化・製品をアピールして日本に関心を持ってもらうことが必要なのだと感じた。

参考資料
国際交流基金サンパウロ日本文化センター図書館ホームページ(2018・01・18)
http://fjsp.org.br/biblioteca-jp/ 
ブラジル日本語センターホームページ(2018・01・20)
http://www.cblj.org.br/ja/
スリーエーネットワークホームページ(2018・01・20)
http://www.3anet.co.jp/ja/141/
国際交流基金ホームページ(2018・01・18)
http://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/survey/area/country/2016/brazil.html#header
エリンが挑戦日本語できます ホームページ(2018・01・20)
http://www.erin.ne.jp/pt/
公共社団法人国際日本語普及協会(2018・01・18)
http://www.ajalt.org/textbook/japanese_for_young_people/
柴田あづさ「ブラジル日系青年にとっての継承日本語教育」2007・03
吉岡英幸「イギリスの日本語教育の現状と課題」1996・03・10
塩入すみ「英国の大学における日本語教育の特徴と動向 ―短期交換留学プログラムの開発に向けてー」
「日本語究める3世/上 高1までブラジル 憧れなく、嫌だった来日 /滋賀」
毎日新聞2016年8月24日 地方版
「(宮城教育リポート)外国出身の子どもの日本語指導、手探り」
朝日新聞2018年01月12日 朝刊 宮城全県・2地方 20ページ


質問
「イギリスの人々はどのような目的で日本語を学んでいるのか」
⇒2012年 国際交流基金の調査では、北米・西欧地域では「マンガ・アニメ・jポップ等が好きだから」 「歴史・文学等 への関心」 「国際理解・異文化理解」 「日本への観光旅行」という回答が上位を占めている。
「エリンが挑戦!にほんごできます。はどれくらい種類があるのか?」
⇒9か国語(英語、スペイン語、フランス語、中国語など)
「ブラジルでは大学入試に日本語は使われないのか?」
⇒使われていない。
「ブラジルでの学習者数の割合は?」
⇒その他の教育機関で約6割、そのほかは約1割ずつ


発表の振り返り
 今回は前回の反省を踏まえ、パワーポイントで実際のテキストやサイトの画像を見せながら発表した。機関の活動の様子も確認することができ良かったのではないかと思う。 
私の班ではアジアの国について発表している人が多かった。その中で感じたのは、日本語がより良い生活を送るために必要だと思われることで日本語学習者を増やすことができるのだということだ。アニメ・漫画などの文化による関心では、日本語学習者の数もレベルも上がらない、ビジネス、外交で必要な言語だと思われる国にならないと継続的な日本学習者数、レベルの維持はできないのだと感じた。今回私が調べた国は使用者数の多い言語を使用しているのでアジアの国のような状態にするのは簡単な事ではないと感じた。

©2014 Yoshimi OGAWA