中等教育における日本語教育―学習の背景や内容に着目して―
                                教育学部1年生 菱沼美咲

1.動機
 今まで「国際理解 日本語をめぐる国際交流史」の授業を受けてきて印象に残った、日本と海外での言語学習の違いは、中等教育課程で第二外国語の学習が行われているかどうかである。そこで、中等教育課程で第二外国語として日本語の学習が行われるようになった背景や内容に興味をもったためこのテーマを設定した。
 また、同じアジアでも、日本と同じ東アジアと、最近急成長している東南アジアで、日本語学習の特徴に差があるのかどうか気になったため、日本に地理的に近い台湾と、日本社会の仕組みを参考にして社会づくりをしているマレーシアを選択した。

 

 2.マレーシアの中等教育における日本語教育
①背景
  マレーシアでは、1984年にルックイースト政策の一環でブミプトラから優秀な生徒を集めた全寮制中等学校のみにおいて国際語選択科目として日本語教育が開始された。1984年から1995年までは青年海外協力隊日本語教師のみで日本語を指導していた。2005年に全日制中等学校でも日本語教育が開始され、それまで4年制だった国際語教育が5年制に改定された。日本語は選択第二外国語の一つとして位置づけられており、他にはアラビア語、中国語、ドイツ語、フランス語がある。
2017年10月現在、53校の全寮制中等学校で選択必修科目、73校の全日制中等学校で選択科目として、日本語は教えられている(「日本語教育国・地域別情報」http://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/survey/area/country/index.htmlより)。
 ②教育制度・教育環境
  中等教育では、5年間で前期と後期に分かれている。中等教育機関のエリート校である全寮制中等学校や公的な中等教育機関の枠外に、独自のカリキュラムを用いて、教育言語であるマレー語を使わず、中国語で授業を行う6年制の私立中等学校も存在する。
 また、日本語科目は、マレーシア教育省が指定する日本語教員養成プログラムを修了した教師、または日本に5年間留学した教師によって教えられる。留学という国外での学習をした教師とマレーシア国内で実施されているプログラムで学習した教師がいる。現在はコストが安い国内での育成に力が入れられている。日本語を学びたいという生徒に対し、日本語を教えることができる教師が足りていないという問題もある。

 

 3.台湾の中等教育における日本語学習
 ①背景
  台湾は、日清戦争後から第二次世界大戦終結まで、日本に統治されており、そのころに日本の教育制度が持ち込まれた。当時は、日本統治下において、日本語が「国語」として教えられていた。戦後には公式の場での日本語の使用は禁止され、日台断交後には日本語学科の増設が許可されなくなったが、日本語教育の需要は、日台間の文化的交流が拡大し続けていたことから常に高かった。1996年からは後期中等教育課程(高等学校)での第二外国語教育が試験的に実施された。さらに、2000年代に入ると、前期中等教育課程(中等学校)でも日本語をカリキュラムや課外活動に取り入れられている。高等学校における第二外国語は、1996年に日本語、フランス語、ドイツ語、スペイン語の4言語から始まり、現在は15の言語が第二外国語となっている。台湾において、日本語は英語の次に学習者が多い外国語となっている。
 ②教育制度・教育環境
  小学校6年、中学校3年、高等学校3年となっている。前期中等教育3年と後期中等教育3年を合わせた中高一貫校も存在する。
台湾では、前期中等教育よりも後期中等教育において重点的に日本語教育を行っている。前期中等教育では中高一貫校、小中一貫校において、教科として日本語を取り入れている機関が存在する。しかし、そのほとんどが選択科目やカリキュラム外のクラブ活動となっている。クラブ活動として、日本のアニメやマンガを取り入れている学校も存在する。
  後期中等教育機関で日本語教育を行っているのは約7割の機関である(2017日本台湾交流協会)。日本語科目のほかに日本語や日本文化のクラブ活動がある高等学校も存在する。
  日本語科目担当教師はほとんどが日本語を母語としない人である。ノンネイティブというだけではなく、ほとんどが非常勤の教師であるという現状がある。

 

 4.意見・考察
マレーシアと台湾を比較してみると、異なる点、同じ点がそれぞれあるように感じられた。マレーシアは中等教育5年間で日本語教育を行うのに対し、台湾は前期中等教育で軽く導入をし、後期高等教育で本格的な日本語教育を行っている。ただ、日本と比較するとどちらもかなり早い段階から学習に取り組んでいるといえる。私は、東南アジアのマレーシアよりも東アジアの台湾のほうが圧倒的に日本語教育が盛んだと予想していたが、中等教育のみに着目すると、学習者数こそ差はあるが、日本語教育の積極性はマレーシアのほうが高いように感じた。この二カ国に共通する点は、「日本語を母国語とする教師がほとんどいない」という点である。マレーシアは、日本語教育が始まった初期の段階は、青年海外協力隊が日本語を教えていたが、いまはほとんどが現地の教師である。台湾には、高等教育段階では日本語を母語とする教師がいるが、中等教育ではほとんどみられない。これでは、日本語のネイティブの発音にふれる機会があまりにも少ないのではないかと考えた。私が小・中学校に通っていた時には、ALT(外国語指導助手)という制度が英語の授業にあり、英語を母語とする人が月に2回程度、英語の授業に参加していた。この制度のおかげで私はネイティブの発音にふれる機会を得ることができ、英語を学習する際にとても役に立ったと感じている。そのため、マレーシア、台湾での日本語学習においても、毎回の授業ではなくとも月に1回程度、ネイティブの発音にふれる機会を作ったほうが学習の効率をあげることができ、日本語を実際に使いやすくなるのではないかと考えた。
マレーシアはルックイースト政策という日本など東アジアを参考にしている社会づくりをしているため、日本語教育にも積極的かつ熱心に取り組んでいる。簡単な会話など基礎的な内容が多い。台湾は日本に地理的に近いことから交流が盛んであり、かつ戦前戦後での深いかかわりがあることから、日本語学習は専門性が高くなっており、前期中等教育よりも後期中等教育で深く学ぶようになっている。このように、日本と同じアジア圏に属していても、日本での第二外国語の学習の仕方とはかなり異なる。さらに、戦前からの日本との関係性、地理的関係、そして経済・文化の交流などといった日本との関わり方が、その国の日本語教育に大きな影響を及ぼしているということが考えられる。

 

5.まとめ
 今回、中等教育における日本語教育について調べてみて、日本とは第二外国語の扱いが異なるということや、同じアジア圏でも、日本とのかかわり方で日本語教育の在り方が変わるということがわかった。

 

6.感想
  マレーシアでは日本語学習をより良くしようと試行錯誤の中で学習制度が整えられているということを知った。シラバスの見直しが行われたり、日本語科目を担当する教師の育成の仕方を工夫したりしているところにそれが表れているように思う。台湾と日本語教育は、自分が想像していたよりも昔から深い関係があるということがわかった。また、日本と地理的に近いということから、経済的・文化的交流が盛んであり、日本語教育の需要がかなり高いということを知った。日本語学習について学び調べるまでは、中等教育から日本語が学ばれているということ、そして国によって学び方に工夫があることを知らなかった。次は高等教育での日本語教育の仕方や、第二外国語の中から日本語を選択して学ぼうと思った動機に、同じアジア圏で違いがあるのか、違いがあるとしたらどのような要因でその違いが生まれているのかについて調べてみたいと思った。

 

7.質問について
・日本語を母国語とする人が現地で中等教育の日本語教師として働くために資格は必要か。
 マレーシアには現在日本人教師がいないためわからないが、「日本語パートナーズ」プ
グラムによって毎年日本人が中等学校に派遣されている。台湾は教員免許が必要である。

 

8.参考文献
・「日本語教育国・地域別情報」1/20 
http://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/survey/area/country/index.html 
・在マレーシア日本国大使館 1/20
https://www.my.emb-japan.go.jp/Japanese/JIS/LEP/top.html
 ・岡本輝彦(2017)「台湾の後期中等教育日本語専門課程における日本語教育について」1/20
 http://repo.beppu-u.ac.jp/modules/xoonips/download.php/nk00703.pdf?file_id=9113
・山田勇人(2011)「マレーシア中等教育における日本語教育の歴史と現状」1/20
https://ci.nii.ac.jp/els/contents110008896628.pdf?id=ART0009853822
 
 

©2014 Yoshimi OGAWA