各国の日本語教育~実際に行われている授業をのぞいてみよう~

教育学部1年 樋口 遥

 

〈オーストラリア〉
オーストラリアでは学習指導要領はあるものの、各学校が独自のプログラムで教育を行っている。今回は、クイーンズランド州にあるウェラーズヒル州立学校に注目する。ウェラーズヒル州立学校では、イマ―ジョン・プログラム(immersion「浸す」という意、通常の授業を第2言語で教えることによって、第2言語を習得させるプログラム)の一環として、「日本語バイリンガルプログラム」を行っている。一般的に、言語の習得は幼いころのほうが適していると言われており、この小学校でも2014年1月、小学1年生から「日本語バイリンガルプログラム」を始めたのだ。
ここからは、ウェラーズヒル州立学校の学校紹介VTRで、特徴をつかむことができたので、紹介したい。(※参照1)「日本語バイリンガルプログラム」では、英語50%(現地の先生)、日本語(日本人の先生)50%で授業を進めている。ある日の3年生の授業を見ると、詩の授業は英語を、地理の授業は日本語を使用していた。算数の授業では日本語を使用するだけでなく、そろばんを使って授業を行っていた。早く問題が解けた生徒には、ご褒美としてビー玉が渡される。授業内でiPadを使用していることから、ICT教育(情報通信技術)もかなり進んでいるとみられる。また、授業だけでなく、節分やひな祭りなどの日本行事を通して日本文化についても学んでいる。バイリンガルプログラムを実行したことによる成果は様々なところに現れている。最も興味深かったのが、バイリンガルプログラムを受けている子供の両親を対象に日本語のレッスンをしていることだ。バイリンガルプログラムを受けた生徒の親は、「自分の子供が日本文化を学んだことで相手への尊敬の念を持つようになった」と感じたそうだ。このプログラムは、家族や地域の理解あってこそ成り立つものだと感じた。
〈オーストラリア日本語教育考察〉
現在の日本の教育界でも「ICT教育」や「イマ―ジョン教育」を推進する動きがある。そのひとつがフェリーチェ玉村国際小だ。この小学校では、「朝礼や昼食、休み時間も英語でやりとりする」ことが決められているが、それだけではなく「日本人として必要な礼儀作法や考え方も教える」のにも重点を置いていることがわかった。母国である日本を理解し、その良さについて英語を使用して世界に伝えられる、そんな人材を育んでいくのだろう。このような目標は、他の学校でも目指すべきものだと思う。母国理解とコミュニケーション能力はどちらかが欠けてもいけないのだ。両立してこそ、これからの日本が求める人材となれるだろう。(参照7)
オーストラリアは先進的な授業を行っているので、良い手本となるのではないか。ICT教育、イマ―ジョン教育には利点もあるが欠点もある。今回のオーストラリアの事例は成功例であるから、それぞれの教育を実現した際の欠点について考えようと思う。
私は、ICT教育の欠点は3つあると考える。1つめは、長時間ディスプレイを眺めることによる身体への負担(視力の低下、肩こりなど)だ。2つめは、機材をそろえるのに、多額の費用が必要となることだ。3つめは、従来の紙と鉛筆での学びの利点が生かせないことだ。書くことで大切な情報を記憶していたのに、書くことが少なくなってしまっては授業の理解度も下がってしまうのではないかと考える。
続いてイマ―ジョン教育の欠点は日本語の習得が不完全な時にもう一つの言語を取り入れてしまっては、どちらの言語も習得できずに終わるのではないかということだ。
日本でこれらの教育を取り入れる際には形だけ取り入れるのではなく、本質的な面に目を向け、日本に合う授業形態を模索していく必要がある。


〈タイ〉
「タイでは、現代のグローバル社会で必要とされている21世紀型スキル(探求する力・推測する力・他者と協働する力など)を各授業に取り入れることが重要視されるようになってきて」(※参照5)おり、外国語でも21世紀型スキルを意識した取り組みを推進している。21世紀スキルと外国語学習を融合させられる学習法として、「プロジェクト型学習(Project Based Learning=PBS)」を導入した。
日本語教育に関して、初等教育ではまだ発達していないが、中等教育では活発に行われている。その中でも、日本語センター校として名乗りを上げる、スラナリーウィッタヤー校に注目しようと思う。この学校は、「県内有数の女子高で、日本語科の学生の80%以上が、大学の日本語科へ進学」(※参照2)する、日本語にかなり力を入れた学校だ。スラナリ―校には、タイ人日本語教師(ノンネイティブ)と日本人教師(ネイティブ)がおり、ティーム・ティーチング(授業場面において、2人以上の教職員が連携・協力を通して指導をし、柔軟な学習集団の編成を目標とする)で日本語を教えている。(※参照3)
日本語センター校は、率先して日本語キャンプなど、日本語を学ぶ行事を行う役割が課せられている。2016年度には、「日本語教師キャンプ」と「日本語インテンシブキャンプ(intensive…徹底的な)」の2つの大規模なキャンプが実施された。(※参照4)今回の2つのキャンプのテーマは、「災害!マイペンライ?(本当に大丈夫か)」だ。まず「日本語教師キャンプ」が行われ、教師自身がこのテーマについての知識をつけ、後に行われる「日本語インテンシブキャンプ」に活かせるようになっている。授業を行う前に、「日本語教師キャンプ」の中で、教師同士が情報や授業案を共有できるのだ。(※参照5)このように授業準備がしっかりと出来れば授業の質がとても良いものとなりそうだ。

〈タイ日本語教育考察〉
 日タイ修好120周年を迎えた両国にとって、言語学習や文化理解はさらに大切になるだろうと考え、タイの日本語教育について調べた600年前にさかのぼると言われており、アユタヤに日本人町が形成されたのが始まりだと言われている。現在でも、経済や皇室関係で、両国は親密な関係がある。
日タイ交流はタイでの日本語学習は発展してきているが、日本語でのタイ語学習の現状はどのようになっているのだろうか。大学の第2外国語の授業でタイ語を取っていると聞いたこともないし、そもそも大学にタイ語講座がない場合が多い。では、タイ語を学ぶメリットはないということになるのだろうか。タイには、日系企業が多く進出している。有名企業では、AsahiやHONDA、読売新聞などが挙げられる。その他にも多くの日系企業がタイに進出している。(参照6)このことから、タイ語はビジネスにも使えることがわかる。日本でもタイ語学習が発展すれば、さらに日タイの友好が深まるだろう。
私自身タイ語を少し学んだことがあるが、独特な文字と発音(母音が20以上、イントネーションなど)に難しさを感じた。日常生活で見かけない言語の1つでもあるので、学ぶきっかけがないことも、日本におけるタイ語教育が少ないことの要因だと考えられる。

 

〈振り返り〉
今回のレポートでは、日本語教育に関して先進的なオーストラリアと発展途上のタイを比較した。授業では主に日本語教育の歴史について学んでいるため、実際に行われている授業はどういうものなのか知りたかったからだ。このことについて調べたことで、日本における外国語教育に活かせることがあることに気付いた。まずオーストラリアの日本語教育から、「保護者の理解と協力」が大切だと学んだ。日本は小学生低学年から英語教育が始まる方針だが、保護者に対してその成果や英語の知識を学校側が伝えるようなことはあっただろうか。なぜ英語を学ぶのか、その意義についてよく理解している保護者は少ないような気がする。この点について改善を図れば、より良い英語教育が展開できそうだ。続いてタイの日本語教育から、英語を教える教員たちの連携が必要不可欠だと感じた。小学校の全教員がそれぞれの方針で英語教育を進めては、学校として英語力は伸びていかないだろう。学年ごとで到達したいラインや目標を定め、ただ英語に触れる機会を増やすだけでなく、中学や高校の英語学習につながるように考えられると良い。

〈質疑応答〉
オーストラリアのウェラーズヒル州立学校の区分は?
→公立小学校。オーストラリア教育省の認定の高度な教育が行われている。

 

〈参考〉
・参照1「Wellers Hill State School Japanese Bilingual Programme 2017」
(2017年12月24日閲覧)https://www.youtube.com/watch?v=2Jg41PbgINc 
・参照2「世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 中等機関のモデル校を目指して!」(12月30日閲覧)https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/teach/dispatch/voice/voice/tounan_asia/thailand/2012/report09.html
・参照3「世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)より多くの先生方のためにデキルコト-「見る!日本語の教え方」プロジェクト始動-」
(12月30日閲覧)
https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/teach/dispatch/voice/voice/tounan_asia/thailand/2014/report09.html
・参照4「世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)みんなでつながる日本語の輪!」(12月30日閲覧)
https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/teach/dispatch/voice/voice/tounan_asia/thailand/2016/report09.html
・参照5「Project Based Learningを取り入れた日本語授業及び日本語キャンプの実践を通してのタイ人教師の気付き」(12月30日閲覧)
http://bali-icjle2016.com/wp-content/uploads/gravity_forms/2-ec131d5d14e56b102d22ba31c4c20b9c/2016/08/Arpaporn-Naosaran_Teachersfull-paper10sep.pdf?TB_iframe=true
・参照6「タイ市場で注目の100社」(12月30日閲覧)http://www.k-tsushin.jp/thai100/
・参照7 「12歳までに本物の英語力を フェリーチェ玉村国際小 あす開校」
2015年 4月3日朝日新聞朝刊(2018年1月9日閲覧) http://database.asahi.com/library2/main/top.php

 

©2014 Yoshimi OGAWA