インドネシアとベトナムの日本語教育―学習者数の変動とその背景―

教育学部1年 副島はるか

 

◯はじめに
私は今回、「外国の日本語教育」について、資料を読んで特に興味を持ったインドネシアとベトナムの2か国に焦点を当ててレポートを書くことにした。両国はともに東南アジアに位置する国であり、日本と古くから関係が深い国だと聞いたことがある。それぞれの国について、まず2つの国と日本との関係について簡単に述べ、のちに学習者数の変動とその背景について詳しく調べていこうと思う。
 
〇インドネシアについて
インドネシアはかつて日本に占領されていた時期もあったが、1950年代に平和友好条約を結んでから、両国の結びつきは深い。親日国家であることももちろんそうだが、「非石油・ガス部門だけでも、インドネシアにとって日本は輸出入の両面で最大の貿易国の一つであり、経済連携協定(EPA)も発効済み」(引用:最近のインドネシア情勢と日・インドネシア関係)、「日本企業にとって、インドネシアは様々な天然資源の源であるとともに、人件費を低く抑えながら製造するための人材の源でもあった」(引用:日本とインドネシアの関係)とあるように、特に経済的な面で強い関係があるため、インドネシアでは実利的な目的で日本語を学習する人が多い。また最近ではアニメや漫画、JPOPなどの日本の文化を契機としたり、日系企業のインドネシア進出やEPAによって日本語を使った就職先が増加したりという理由で学習する人も多い。そんなインドネシアの人口は2.5億人であり、学習者数は2012年ではおよそ88万人に上り世界第2位の数になるなど、世界的に見ても、日本語を学習している人が非常に多い国だと言える。
次に、学習者数の変遷についてみていく。国際交流基金のサイトに載っている情報によると、インドネシアの日本語学習者数は1979年から2003年まで約5万人前後でほぼ横ばいで、2003年以降約88万人まで急激に増え、2012年を境に約75万人まで減少している。先に述べた通り、インドネシアは古くから日本と関係があったので、日本語学習者数はある程度いたことがわかる。急激な変化について、まず学習者数が2003年以降増えている原因は、高等教育のカリキュラム編成にあるということがわかった。インドネシアで日本語学習が高等教育に含まれたのである。インドネシアは高等教育で日本語を履修する学生が多く、「2006年からは、後期中等教育機関(おもに高校)で日本語を含むいくつかの外国語を第二外国語として選択必修することが、カリキュラム改正によって決定」(引用: 日本語学習者 世界第2位!インドネシアで日本語教育が盛んな理由。)されたため、2006年以降も急激に増え続けたということが予測される。また当時の新聞記事を見ても、「独立行政法人の国際交流基金は3月時点で39カ国に日本語専門家123人を派遣し、現地での教員育成や授業のカリキュラムづくりを支援している」「中国やインドネシア、タイ、マレーシア、フィリピンでは日本語が中等教育の教科として採用されている」(引用: 日経新聞「日本語普及へ専門家派遣拡充」)など、やはり教育課程のカリキュラムに日本語教育が組み込まれたことが、日本語学習者数が多く、また増加している理由であると考えられる。2012年を境に日本語の学習者数が減少していることについては、「中等教育機関においては、2013年の政府による教育課程の改定によって、それまで必修科目であった第二外国語を中止し、受験に有利な科目に切り替える機関もあった」(引用:海外の日本語学習者数は減少へ)ことが原因として挙げられると分かった。つまりインドネシアの学習者数の増減は教育課程のカリキュラムの影響を大きく受けていると思われる。
インドネシアの日本語学習者数は近年減少に転じているが、文化の普及などもあり、これからさらに日本との交流が深まっていくにつれて、日本語学習者数はまた増加するのではないかと思っている。
 
〇ベトナムについて
インドネシアと同じように、ベトナムも日本と関係が深い。外務省のサイトによると、「1992年11月に経済協力再開。日本はベトナムにとって最大の援助国。特に2011年度以降は、年間の援助供与額が2000億円を超える規模となっており、我が国ODAはベトナムの経済社会インフラ開発等に大きく貢献している」(引用:最近のベトナム情勢と日ベトナム関係|外務省)と書いてあり、経済的にも大きくかかわっていることが分かる。ベトナムの経済発展の援助をするために、日本がベトナムに企業拠点を作っていることもあり、ベトナムでの日本語教育への需要が高いことは容易に予測できる。のちにまた述べるが、ベトナムの人口は9000万人であり、2012年時点の日本語学習者数は4万7千人程度である。
次に、学習者数の変遷についてみていくため、国際交流基金などのサイトの情報をもとに調べることにする。「1961年にハノイ貿易大学、1973年にハノイ外国語大学(現ハノイ大学)で日本語教育が開始され、その後他の国立大学や私立大学でも日本語教育が開始された。当初は日本語学科として始まったものを、日本語学部に昇格させる動きも見られる」(引用:国際交流基金-ベトナム)とあり、ベトナムでは日本語教育が始まってから徐々に広まってきた。また政府が小学校の第一外国語を日本語にすることも協議しており、中等教育や高等教育にとどまらず、ベトナムの日本語教育は広く行われている。「2012年度日本語教育機関調査によると、学習人口は4万7千人弱で世界8位、日本との経済交流、文化交流等の拡大を反映し学習者は増加し続けている」(引用:国際交流基金-ベトナム)とあり、「オーストラリア、タイ、ベトナム、フィリピンにおいては、前回調査と比較して 20%以上の学習者数の増加が確認されました」(引用:2015年度「海外日本語教育機関調査」結果(速報))ともあることから、ベトナムではインドネシアと違って、学習者数が現在も上がり調子であることが分かる。これは、「ベトナムでの日系企業への求職や転職、職場での昇給のために日本語を学習する者が多く、特に北部において日本語学習者の増加が目立っている」(引用:国際交流基金-ベトナム)というように、日本で働くベトナム人労働者が多いことに大きくかかわっていると考えられる。
また、「現在では、ハイフォン、フエ、ダナン、ダラット、カントー、バリア・ブンタウなどの地方都市においても日本語教育が実施されている」(国際交流基金-ベトナム)ことより、ベトナムでは今後もさらなる日本語教育の普及が予測される。

 

◯まとめ
インドネシアもベトナムも日本と関係が深く、地理的にも日本に近いので、日本語学習者数が多いという点は似ていたが、学習者数の変動は異なっていた。また背景も異なり、インドネシアでは教育課程、ベトナムでは日本での労働力、というように変動の大きな原因も明らかになった。漫画やJPOPなどのサブカルチャーも日本語を学ぶきっかけにはなりうるが、長期的な動機にはなりにくい。よって、学習者数の変動は諸外国の教育カリキュラムや企業進出などの日本との関係に起因すると考えられる。

 

〇おわりに
外国の日本語学習について、調べる前は両国の学習の普及状況や変動は似ていると思っていた。しかし調べれば調べるほど変動の様子やその背景は異なっていてとても興味深かった。日本語教育の歴史や学習者の動機についてもこれからもっと詳しく調べてみたいと思った。

〇発表の際の質疑応答
ベトナムの日本語学習者が関わっている日系企業とは具体的にどういうものがあるのか。
→日本で少子高齢化が進んでいるため、介護職へ就く人数が多い。またこれは、ベトナムに限らず、インドネシア人やフィリピン人なども積極的に受け入れていることが新たに調べて分かった。こういった職に就く人々から日本語学習の需要は高まっており、日本政府も外国人労働者向けに日本語研修などの取り組みを行っている。

 

〇発表の振り返り
私はレポートに書いた情報の中から、発表の大まかな流れに必要なことを抽出して、聞き手に内容がわかりやすく伝わるように努力した。パワーポイントでグラフを見せ、そのグラフに沿って説明することで、聞き手が視覚的にも情報を得られるようにした。発表中の聞き手の様子からも、学習者の変動と背景が伝わっている感触を感じた。またほかの人の発表を聞いて、パワーポイントに比較の表を入れたり、もっと簡潔な言葉でまとめられたりできるようになりたいと思った。

 

◯参考文献 
最近のインドネシア情勢と日・インドネシア関係|外務省
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/indonesia/kankei.html(2017年1月20日閲覧)
日本とインドネシアの関係
https://www.weblio.jp/wkpja/content/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%A8%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%8D%E3%82%B7%E3%82%A2%E3%81%AE%E9%96%A2%E4%BF%82_%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%A8%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%8D%E3%82%B7%E3%82%A2%E3%81%AE%E9%96%A2%E4%BF%82%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81(2017年1月20日閲覧)
日本語学習者 世界第2位!インドネシアで日本語教育が盛んな理由。
http://asenavi.com/archives/6506(2017年1月20日閲覧)
国際交流基金-インドネシア
https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/survey/area/country/2014/indonesia.html(2017年1月20日閲覧)
海外の日本語学習者数は減少へ
http://working-asia.com/japanese/(2017年1月21日閲覧)
日本語普及へ専門家派遣拡充 日本経済新聞 2013年7月29日付
https://www.nikkei.com/article/DGXNASFS28003_Z20C13A7MM0000/(2017年1月21日閲覧)
最近のベトナム情勢と日ベトナム関係|外務省
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/vietnam/kankei.html(2017年1月21日閲覧)
2015年度「海外日本語教育機関調査」結果(速報)
https://www.jpf.go.jp/j/about/press/2016/dl/2016-057-1.pdf(2017年1月21日閲覧)
国際交流基金-ベトナム
https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/survey/area/country/2014/vietnam.html(2017年1月21日閲覧)
世界の人口 国別ランキング・推移(国連)-Global Note
https://www.globalnote.jp/post-1555.html(2017年1月23日閲覧)
インドネシア、フィリピン及びベトナムからの外国人看護師・介護福祉士候補者の受入れについて
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/gaikokujin/other22/index.html(2017年1月23日閲覧)

 

©2014 Yoshimi OGAWA