イギリス・ロシアの日本語教育―戦後から現在までー
教育学部1年生 小島 恵
〇はじめに
前回のレポートでジョージ・アストンやアーネスト・サトウについて調べたということと、授業で見た映画が印象的であったという理由で今回私はイギリスとロシアの日本語教育について調べることにした。ここでは、第二次世界大戦後を中心にそれぞれの日本語教育がどのように推進されてきたのかについてまとめていく。
〇イギリスの日本語教育
・イギリスの日本語教育概略
イギリスでは本格的に日本語教育が開始されたのは1946年にロンドン大学SOASにおいてであった。翌年には英国政府の諮問委員会「スカプロ委員会」による答申に基づき5年間の助成が行われ、これに基づいて1947年にケンブリッジ大学で、1960年にオックスフォード大学東洋研究で日本語講座が開設された。1961年には、軍事力の低下した英国の国際影響力を維持する観点より、ウィリアムヘイターが英国における東アジア研究の状況を調査し、調査報告書『ヘイター・レポート』にてイングランド北部に、日本、中国、東南アジアを専門的に研究する機関を設置するように訴えた。さらに、1970年にはカウンティアッパースクール(公立中等教育機関)において英国の中等教育で初となる日本語教育が開始された。1970年代には語学学校の成人教育機関等で日本語等を教える機関が現れ始めた。こういった動きにより、1982年には日本語学習者数が1973年の78,000人から132,300人に増加した。1986年にはピーター・パーカーが調査報告書「未来に向けて―アジア・アフリカ言語及び地域研究に対する英国外交・通商上の要請に関するー考察」(通称パーカー・レポート)を作成。この中では、日本研究及び日本語教育は英国の外交・通商上、重要であり、日本語を学んだ人材に対する需要は今後増加するであろうということから、日本語の研究、教育の場を拡大するように勧告している。この報告書により、高等機関において更なる日本語教育の充実が図られた。また、この時期に英国に進出する日本企業が増加したことにより中等教育でも日本語の授業を始める機関が増加した。1988年には、イギリス通商産業省が英日間の通商促進を目的としてOpportunity
Japanキャンペーンを実施し、高等教育機関での日本語、日本文化関係プログラムへの資金拠出が決定された。また、高等教育以外の分野の日本語教師の組織で日本の国際交流基金の援助により運営されている、日本語協会(JLA)が設立されたり、ナショナル・カリキュラムの制定により日本語が選択できる19の外国語の一つとして指定されるなど様々な政策がなされた。1995年にはランゲージ・カレッジ制度が導入され、認定校の約7割が日本語教育を取り入れた。このように、日本語教育は拡大されてきたが、1990年代半ばに政府助成金が大幅に削減され、日本研究・日本語講座を縮小または廃止する大学が出てきた。しかし、その後も語学試験や政府による政策によってイギリスでの日本語学習者数は1990年代以降大きく増加し、2009年には過去最高の19,673人となった。
・現在のイギリスの日本語学習状況
上記に述べたように、高等教育は1946年、中等教育は1970年、成人教育も1970年代から始まり、さらに1999年にカリキュラムに日本語を導入する小学校ができたことで初等教育でも日本語を学習することができ、日本語を学習する機会が幅広く設けられている。
〇ロシアの日本語教育
・ロシアの日本語教育概略
ロシアの日本語教育の歴史は300年にも及ぶがここでは割愛させていただく。ロシアでは戦後1956年に日本語教育の指導的機関としてモスクワ大学附属アジアアフリカ諸国大学日本語・日本文化学科が設立された。それから様々な語学試験や日本語教師会が設立されてきた。2008年にはモスクワ市で初等・中等教育機関で日本語教育が導入された。
・北方領土における日本語教育
ロシアと日本の北方領土問題は近年、取り出されることも多いが、解決に向けて様々な取り組みがなされている。1998年から行政独立法人北方問題対策協会によって、日ロ政府間で特例的に認められた北方四島交流、いわゆる「ビザなし交流」において「北方四島交流事業日本語講師派遣事業」を実施している。この事業は日本人日本語講師を北方領土の島々に派遣し、北方領土の地に居住するロシア住民に向けて日本語コースを開講するものである。
・最近の動向
モスクワでは2011年に28校までに増えていた日本語教える初中等教育機関が17校に減少した。これは、学校のカリキュラムに合った教材の欠如や日本に関する情報不足が原因であると考えられる。こうした状況を踏まえ、初中等教育における日本語・日本文化の普及支援策を具体的に検討するため、実施調査に着手し、今後初中等教育における教科書の出版をはじめとする教育環境面での支援、また学校での日本文化行事実施等による関心喚起などの側面的支援が進められる。
・教育段階別による状況
ロシアでは日本語教育の特別カリキュラムを有する専門の初等・中等教育機関がいくつか存在しており、そのような学校では非常に高い日本語能力を有する生徒もみられる。日本語学習の動機は研究目的、純粋な日本文化への関心と実利目的に分けられる。高等教育においては留学する機会が設けられているのはほぼ都市部の有名大学に限られており、多くの機関で設備が整えられていないために日本からの留学生を獲得できず、交換留学のプログラムは減少傾向にある。その一方で中国との交換留学は増えており、中国語学習に流れの本語学取捨は以前ほど増えなくなってきている。
・日本語学習者数
2006年 2012年 2015年
初等教育 1、055 778
中等教育 2,492 2,355
高等教育
4,317 2,971
その他の教育機関
3,537 2,546
合計 10,116
11,401 8,650
国際交流基金調査
(単位は人)
表からも分かるように、ロシアにおける日本語教育は高等教育が中心である。また、これらの教育機関で使われている教科書は、日本人が来たものはもちろん、ロシア人研究者が書いたものも多くあり、日本語教育研究への関心の高さがうかがえる。
〇イギリスとロシア比較
イギリスにおいて高等教育における日本語研究は東洋研究の中に位置づけられ、その一部として日本語教育が行われてきたのに対し、ロシアでは日本語教育そのものだけでなく。日本語学、日本文学、日本語教育方法の分野における研究が進められてきたことに特徴がある。また、日本語を学習するきっかけは、両国とも日本文化への関心が高いように思われる。
〇考察
イギリス、ロシアの日本語学習者数は減少傾向にあるようだが、これは政府の政策よるところが大きいように思われる。また、イギリスもロシアも日本文化への関心から日本語を学習する傾向にあり、政府によりさらに教育体制を充実させていけば日本語学習者の数はますます増えていくだろうと思われる。
また、朝日新聞の記事に残留邦人や在日外国人への日本語教育が追い付いていないという内容が書かれていた。日本の少子高齢化による外国人労働者の受け入れがこれからもますます増えていくであろうことが考えられる。そういった動きの中で、日本国内での日本語教育を充実させていくことが重要であると考える。
〇感想
日ロ間での交換留学が減少傾向にあることで日本語学習者も減ってしまっているということであったが、日本におけるロシアへの関心も日本語学習者の数にかかわっているのだと驚いた。国際理解の授業でもやっているように、外国語学習は国からの要請によってさまざまに変化することが分かった。通商を促進するため、領土問題を解決するためなどそれぞれの国の利益に注目するとよりわかりやすいと思った。国によって多少差はあるが、日本語学習者数は全体的には増加傾向にあるということで、きっかけは何であれ、日本に興味をもってもらえるのはうれしいことだと感じる。
〇発表後コメント
初等教育でも、第外国語が教育されているということに驚いたというコメントがあった。確かに、日本では初等教育では英語しか教えられていない。しかし、世界的にみると、初等教育から第二外国語を教えている国は多いように思う。
・ロシアの日本語教育の歴史が300年ということであったが始まりはいつからか?
→始まりはロシアに日本人漂流民が付き、そこから日本語教育が始まった。でんべいという漂流民がロシアで初めて日本語教師である。
・北方領土問題の話があったが、対立している国の言語を学ぼうと思うのはなぜか?
→これは、お互いについてよく知ることで問題の解決を試みようという動きによる。
〇発表における工夫・振り返り
今回の発表で工夫したことは、パワーポイントを使ったことである。以前は、紙を見て話すだけでいまいち伝わっていないような気がしたが、パワーポイントを使うことで自分が伝えたいところを強調でき、聞いているほうも簡潔にまとめられたものを見ているということで分かりやすかったと思う。今回のレポート、発表、友達の発表をきいて外国における日本語教育の理解が深められた。
【参考文献】
・国際交流基金(2017)「日本語教育別地域別情報」、
<http://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/survey/area/country/index.html>2018年1月20日アクセス
・塩入すみ「英国の大学における日本語教育の特徴と動向」、『調査研究シリーズ106』.
・Japan foundation(2013)「300年にわたるロシアでの日本語教育の系譜に連なって」、
<http://www.wochikochi.jp/special/2014/11/russia-japanese.php>2018年1月20日アクセス
・副島健治(2008)「「北方領土」における「ビザなし交流」としての日本」、『富山大学留学センター紀要』7、p15―30、富山大学留学センター
・朝日新聞「サハリン残留邦人、望郷と不安」2017年
・朝日新聞「社説」2018年1月20日朝刊
©2014 Yoshimi OGAWA